法人税は公正なる会計処理を前提にする
法人税で定める「公正処理基準」とは何かについて、これを争点とした訴訟がありました。
役員退職給与の分割支給時費用処理の是非が論点です。
納税者の主張する更正処理基準
納税者の主張は次のように要約できます。
(1) ①会計慣行又は会計基準に従ったものであり、②公平な所得計算という要請に反しないという2つの要件を満たしていれば更正処理といえる。
(2) ①株主総会等での決議時全額費用計上、②各分割支給日事業年度で分割額を費用計上、の二つが会計慣行として確立している。
(3) 多くの税務署関係者の解説書、多数の税理士のウェブサイトが(2)に言及し、広く知られるに至っていることは、その会計慣行化の証しである。
税務署の主張する更正処理基準
税務署の主張は次のように要約できます。
(1)支給時に費用として計上することを許容する会計処理の基準や会計慣行はない。
(2) 企業会計原則や中小企業の会計に関する指針は、費用の計上について、発生主義を採用し、確定債務を支払時の費用として計上することを許容するとはしていない。
(3) 分割支給時費用化の会計処理は、決算状況を見ながら支給の有無、額や時期等を決定し、恣意によって所得金額の調整計算を行うことを認めることになるものであるから、法人税法の企図する公正な所得計算という要請に反するものであって、とても公正処理基準とはいえない。
裁判所の示した更正処理基準
裁判所は次のような見解を示しました。
(1) 公正処理基準は、明文化された特定の会計基準自体を指すものではなく、確立した会計慣行をも広く含むものである
(2) 通達は、実態がないところで作られたのではなく、実態を前提として規定されたものであるはずで、支給年度損金経理は、既に相当期間に亘り、相当数の企業によって採用されていると推認でき、役員退職給与を分割支給する場合における会計処理の一つの方法として確立した会計慣行であるということができる
(3) 中小企業においては、会計基準よりも税務会計に依拠している実態があり、そのような中小企業においては、通達に依拠した支給年度損金経理は、一般に公正妥当な会計慣行の一つといえる
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