相続後の法定果実
賃貸建物から生じる賃料のような収益のことを法定果実と言い、収益の源になる建物のことを元物と言います。
この賃貸建物が相続財産であった場合で、相続人が複数いる場合には、遺言がない限り遺産を分けるには分割協議をしなければなりません。
そして、分割協議が成立すると、民法上遺産の分割の効力は相続開始の時にさかのぼるので、建物の所有権は相続時点に遡及しての取得になります。
法定果実については、法律上、果実収取の権利者の権利期間に応じた日割計算をして帰属額を決める、とされています。
未分割のまま果実収取のとき
9月1日に亡くなった場合で、年末までに遺産分割が整わなかった時は、建物賃料に係る所得税の申告にあたっては、その相続開始年の1月1日から8月31日までの賃貸所得分は被相続人の所得、9月1日から年末までの所得は、相続持分に応じた各相続人に分属することになります。
翌年5月1日にその相続についての分割協議が整ったとしたら、各相続人はそれぞれ遡って相続開始日の9月1日に遡及してその分割取得財産を自分のものとします。
法定果実の収取の権利の遡及変更は?
所有権の取得が遡及適用となるなら、その所有権者の効用としての建物賃貸による法定果実の収取に対しても遡及の効果があると考えるのが自然です。
遺産分割の内容に合わせて、相続開始年分の所得税の増額修正申告をし、または減額更正の請求をする、と考えたくなります。
法定果実は相続財産ではないという視点
ところが、「未分割財産に係る法定果実は相続財産そのものではないから、遺産分割の遡及効果が及ぶものではない」との考えもあります。
誰がそんなことを言うのかというと、税務署と最高裁です。
税務署は古くから、分割確定前の法定果実は相続人全員の共有で、分割による遡及訂正は不可との見解でした。
判例としては、平成17年9月8日に初めて最高裁が法定果実共有説の判決を出しました。
地裁と高裁は法定果実にも遡及効ありとの見解でした。
こちらのほうが一般の常識に沿っていたものでしたが、最終解釈権者の最高裁は遡及効なしとしました。
おかげで、税実務に混乱は起きませんでした。

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