功績倍率「2~3倍」で大丈夫か?
「役員退職金をどのぐらい支払えばよいか?」というのは実に悩ましい問題です。 
一般的には、役員退職金の算定方法は、「功績倍率法」(退任時報酬月額×在任年数×功績倍率)や「1年当たり平均額法」などで求められます。
法人税法では、役員退職金は「不相当に高額」ならば、過大役員給与として損金不算入となります。
会社が「不相当ではない金額」を決めようとする場合、「その法人に従事した期間」や「類似法人(業種・規模など)の役員退職給与の支給状況」などを総合勘案する必要があるとされています。
過去の判例(昭56.11.18など)から、功績倍率法の場合、おおむね「2~3倍」(平取2倍・社長3倍)の範囲ならば大丈夫ではないかといわれていました。
全国統計から抽出した功績倍率は使えない
平成25年の東京地裁の判例では、国税側が示した平均功績倍率1.18倍で算定した約490万円を適正なものとして、納税者が個別事情を加味して支払った退職金6,032万円のほとんどを否認しています。
判示された項目の一つに、功績倍率を選定する抽出法人が適当でないという点がありました。
これは納税者が任意団体の公表する全国の役員退職金データ(全国7,320社、役員8,454人)から抽出した4法人を用いて適正功績倍率「3.0倍」と算定したところ、国税側の示した3法人より「対象地域」「業種の類似性」の点で劣るとして退けられたものです。
「功績倍率法では、同業類似法人データの抽出基準」がポイントであるということですが、国税側はこのような情報にアクセスが容易な一方で、一般納税者が入手することは極めて困難なものといえます。
「シークレット・コンパラブル」と同じ問題
似たような話が国際税務の世界でもあります。
移転価格税制の調査では、独立企業間価格の算定に必要な資料が納税者から出されない場合、国税側が質問調査権を行使して入手した競合他社の情報を基に推計課税を行うことがあります。
この課税の根拠となる比較対象企業は、守秘義務の観点から納税者には知らされないため「シークレット・コンパラブル」と呼ばれています。
納税者は、どこの企業か分からなければ、本当に自社と比較できるものであるかも分からないので、反論のしようがないわけです。

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