取締役と利益相反取引
買い物をするとき、消費者であればできるだけ安く購入したいと考え、販売者であればできるだけ高く売りたいと考えます。
このように、お互いの利益が対立する状態を「利益相反」と言います。
利益相反は、立場が違う者同士に関係が生じれば自然と発生しうるもので、これは取締役と会社の関係であっても同様です。
では、本来会社に利益をもたらすべき取締役が、会社と取引をすることに問題はないのでしょうか。
取締役は会社に対し忠実に職務を行う義務を負っておりますので、会社の利益を犠牲にして自分や第三者の利益を図るような取引は認められません。
会社法ではこのような利益相反取引を規制しており、客観的に利益相反にあたる取引を行う場合には会社(取締役会または株主総会)の承認を得なければならず、この承認を得ずに行った取引は原則として無効になると解されています。
利益相反取引にあたるかどうかは、公正な条件の取引かどうかではなく、利害対立が起きうる関係であれば一律に利益相反とされますので、事前の承認を得なければならない場面は思っている以上に多いものです。
利益相反取引の具体例
たとえば、古くなった社用車を取締役個人の名義に変えるという場合は会社から社長への譲渡取引になりますが、本来であれば売却価値のあるものを、無償又は廉価で譲渡することにより会社が損害を受ける可能性があるため、利益相反取引になります。
また、取締役個人が持っている不動産や株式を会社名義に変えたいという場合も、無償譲渡でない限り利益相反取引になります。
一見すると会社にとって有利に思われる低廉な価格での譲渡であっても、会社に支払いや負担がある以上、会社の利益を害する可能性があるため、承認が必要になるのです。
迷ったときには事前の承認を
利益相反取引を規制する趣旨は会社の利益保護にあります。
よって、会社に不利益を与える可能性のない取引、たとえば取締役が会社に対し、金銭を無利息・無担保で貸し付けるといった場合は、会社に不利益を与えるものではないため、利益相反取引にはあたりません。
なかなか難しい判断ですので、利益相反取引になるかどうか迷った場合には、事前に会社の承認を得ておいた方がよいでしょう。

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