火力発電所の有姿除却
法人税の裁判で火力発電所の有姿除却(固定資産が物理的に廃棄されていない状態で税務上除却の処理を行うこと)が争われた「中部電力事件」というものがあります。
これは、電力会社が電力供給過剰の状態となったため、法定耐用年数を経過した旧式火力発電所を、電気事業法の廃止手続をとった上で54億円の除却損を計上したところ、税務当局より「実際に解体済みであったものを除き、再使用の可能性がないと客観的に認められない」として否認されたため争いとなったものです。
裁判所は、仮に多大な費用と時間をかけて、低効率な旧式の設備をわざわざ再稼働させる経済的な理由がない――いわば「経済的観点から再稼働することはなかろう」ということで会社が行った有姿除却処理を認めました。
有姿除却の要件
法人税の通達では、次の固定資産については、たとえ廃棄していない状態でも「帳簿価額-処分見込価額」を除却損として損金計上できるものとしています。
①その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
②特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等からみて明らかなもの
ただ、税務調査では、再稼働の余地があるかないかで意見が分かれることが多く、当時は非常に注目された裁判でした。
評価損の方が「法のハードル」は低い
もし、会社が税務当局との意見の相違を避けるのであれば、「その資産が1年以上にわたり遊休状態にあること」を理由として固定資産の評価損を計上する余地がありました。確かに「評価損」の方が、外見上ハードルが低く、筋が良いようにも見えますが、問題はその「評価損」の額です。
評価損の額は、期末の「時価」との差額ですから、その算定に議論の余地がありそうな上に、有姿除却の場合の「除却損」(帳簿価額-処分見込価額)よりは大きな金額は見込めなかったのでしょう。
有姿除却の方は法のハードルが高くても、認められれば、金額の争いは少ないと思われます。
 
 

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